「家を買う」と決めた。さらに、「マンション」にすることを決めた。そうなると次に立ちはだかるのは、「じゃあ、広島のどこに住むん?」という、これまた難解な問題です。自動車メーカーで働く多忙な夫の通勤利便性と、(いちおう)専門職であるライターの私の仕事環境、そして5歳の息子の教育環境。できる限りの希望を叶える「正解の街」はどこなのか。広島の街を知り尽くしたプロに、エリア選びの深すぎる裏側を聞いてきました。

しんどう
広島生まれ、広島育ちのフリーライター。自動車メーカーに勤務する夫と5歳の息子、猫2匹暮らし。フリーのライターとして、住まいには「静かさ」と「利便性」の両方を求める欲張り派。GAパートナーズの辻󠄀本さんに弟子入りし、広島の街の「真の価値」を勉強中。
地図を前に、わが家の「正解」を探す
「マンションにする!」と決めた日から、わが家のリビングには広島市内の大きな地図が広げられています。
嘘です。
そんなものを、ずっと広げておく広さはないので、ちょくちょく広げては眺めています。やっぱりこういう時は、ネットじゃなく紙の情報もいいなと思いますよねー。
わが家の状況を整理してみると、意外と条件はシビアでした。
まず夫。彼は自動車メーカーに勤めていて、日々タイトなスケジュールをこなしている。
となれば、中区や安芸郡府中町、あるいは南区宇品といった、職場へのアクセスが良い場所が理想です。
次に私。フリーのライターという職業柄、基本は在宅ワークですが、打ち合わせで中区など中心部へ出ることも多い。集中できる静かな環境と、電停や駅への近さは譲れません。

そして息子。あと2年で小学校入学です。広島で子育てをする親なら誰もが気になる「学区」や「教育環境」の良さは、やはり重視したいポイントです。
えー。これ全部満たせる場所なんて、ほんとにある??
地図を眺めれば眺めるほど、広島という街の複雑な地形が見えてきます。川が扇状に広がるデルタ地帯、急激に切り立つ山々、そして再開発で劇的に変わりつつある広島駅周辺……。
「よし。今回もあの広島の住宅のプロ・辻󠄀本さんに、街の見極め方を教えてもらおう!」
私は再び、中区八丁堀にある株式会社GAパートナーズへと向かいました。だんだん相談のハードルが下がってきたなー。
プロが語る、広島の「街選び」の3つの軸
本社の応接スペースで迎えてくれた辻󠄀本さんは、今日も私のわがままな悩みを受け止めてくれました。


開発事業部1部
課長代理 辻󠄀本 裕哉
●不動産業界歴10年以上
●宅地建物取引士
しんどう: 辻󠄀本さん、マンションを買おうと決断したんですが、場所が決まりません! 夫の仕事(自動車メーカー)を考えれば安芸郡府中町や南区宇品がいい気がするけど、子育て環境を考えれば段原も気になる。でも中区の利便性も捨てがたい……。プロはどうやって「街」の価値を判断しているんですか?
辻󠄀本さん: しんどうさん、お久しぶりです(笑)。エリア選びは、マンション購入において最も知的な楽しみがある部分ですよ。私たちデベロッパーがマンションを建てる場所を選ぶとき、実は大きく分けて3つの軸で見ています。
しんどう: 3つの軸、ですか?
辻󠄀本さん: はい。「交通の利便性(モビリティ)」「生活の利便性(周辺施設)」「将来性(再開発や人口動態)」です。やはり多くの方は、JR山陽本線沿線やバス便の良さを重視されます。さらに、しんどうさんのようにご自宅でお仕事をされることのある方は、単なる近さだけでなく『街の雰囲気』や『静穏性』も大切にされますよね。
しんどう: そうなんです。仕事中に外がうるさすぎるのは困るし(家の中の息子が一番うるさいんですけど笑)、かといって坂の上も嫌。わがままですよね(笑)。
辻󠄀本さん: いえ、それが普通です。では、今の広島で特に注目すべきエリアを具体的に見ていきましょうか。
中区エリア――広島の「基準」であり、資産価値の最前線
しんどう: 広島に住むなら、やっぱり「中区」は気になりますよね。私も打ち合わせでよく行きますし、便利な施設もたくさんあります。正直、お値段が高そうで手が届くのか……。それに、子どもを育てるとなると、交通量も多いし、少し落ち着かないイメージもあるんです。利便性と住みやすさって、両立できるものなんでしょうか?
辻󠄀本さん: そのイメージを持たれる方は多いですね。ただ、中区と一言で言っても、場所によって驚くほど表情が違うんですよ。
しんどう: 確かに。白島、舟入、吉島、十日市……。どこも「中区」ですけど、雰囲気は違いますよね。
辻󠄀本さん: 例えば「白島」は、広島市内でも屈指の住宅街。JRとアストラムラインが交差する利便性があり、かつ落ち着いた雰囲気があります。一方で「舟入」方面は、平地で暮らしやすく、中心地に近いわりに少し落ち着いた生活ができる。
ご主人の通勤は、中区からだとバス便や路面電車が主役になりますが、実は自転車でスイスイ行けてしまう距離感なのも魅力です。
しんどう: 夫は「通勤は短い方がいい」と言いますが、私がライターとしてカフェで執筆したり、図書館に行ったり、取材に出たりすることを考えると、中区ならではの時間効率の良さは魅力的です。
辻󠄀本さん: 中区は『職住近接』を実現しやすいエリアですからね。ただ、その分、物件価格は高くなる傾向にあり、駐車場代などの固定費も高くなりがちです。
それでも中区が選ばれる理由のひとつは、「リセールバリュー(売却価格)」への期待感です。もし将来手放すことになっても、平地で電停やバス停から近い物件なら、比較的需要が見込まれるため、売却時の安心感につながりやすいと考えられます。
しんどう: こうして考えると、住まい選びは「どこで暮らすか」だけでなく、「どんな価値を身近に置くか」という視点もあるのかもしれません。中区には、そうした魅力を感じる方も多いんでしょうね。
「段原周辺エリア」――広島駅再開発と区画整理の底力
しんどう: 中区の利便性はもちろん魅力ですけど、広島駅への近さって魅力的だと思っちゃうんですよね…。もちろん広島駅に近すぎると喧騒感があって、住みづらそうなんですが、そのバランスの良さを考えると、「段原エリア」も頭をよぎるんです。子育て環境も何となく良さそうなイメージもあります。
辻󠄀本さん: おっしゃる通りです。段原周辺エリアは、広島市内でも「利便性と住みやすさ」のバランスが良い街として有名です。さらに、ここ数十年の大規模な区画整理によって、道が広く、平地で、非常に美しい街並みに生まれ変わったという点も魅力ですね。区画整理により、新たな住まいも多く誕生しており、「広島駅利便と住みやすさ、子育て環境」のバランスが良いエリアの一つと言えますね。

また、子育てに関してですが、最近の傾向としては、以前ほど「この学区じゃないとダメ!」というこだわりは薄れつつあります。それでも、「落ち着いた環境で、しっかり教育を受けさせたい」という方々も多くいらっしゃいますよ。
しんどう: 段原なら夫の職場にも近いし、私もバスや自転車で中区に出やすい。子供も楽しく過ごせる。共働きのわが家にとっては、こういうバランスの良さがありがたいんですよね。
「安芸郡府中町」――マツダお膝元の多彩な実力
しんどう: 夫の知人も多く住んでいるのが「安芸郡府中町」です。「人口日本一の町(※1)」を記録したとも聞きますが、実際はどうなんですか?
辻󠄀本さん: 府中町は、不動産のプロの間でも注目されることの多いエリアです。広島市に囲まれながら独立した自治体であることは、広島都市圏の中でも特徴的なポイントといえるでしょう。また、比較的安定した財政基盤を背景に、子育て支援や医療費助成などにも取り組んでいます。
しんどう: 夫の職場のすぐそばですし、何より「イオンモール広島府中」という巨大な商業施設があるのは強いですよね。

辻󠄀本さん: そうなんです。さらに、最近では府中町が「市」になるという話も現実味を帯びてきています。もしそうなれば街としての価値が上がりますし、利便性がさらに上がって資産価値にもプラスの影響が出る可能性もありますよね。
しんどう: 職場に歩いて行けるくらいの距離に住む社員さんも多いと聞きます。
辻󠄀本さん: 職住近接を求めるなら、府中町は最高の選択肢の一つと言えます。ただ、その分、人気が高すぎて平地の物件がなかなか出ないという悩みもありますが(笑)。しんどうさんのように、ご主人が毎日の通勤をされる方なら、この「利便性」の高さは無視できないはずですよ。
しんどう: 確かに!でも、人気過ぎて私たちに相応しい物件に出会えるかどうか…(汗)。
(※1)安芸郡府中町は全国の町村で最も人口が多い。 出典:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査(令和7年1月1日現在)」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/jinkou_jinkoudoutai-setaisuu.html
「広島駅周辺」――再開発という名のボーナスステージ
しんどう: 先程の段原エリアでも少し触れましたが、最近、広島駅周辺(南区・東区)は再開発が進み、広島市内でも特に注目を集めるエリアの一つになっていますよね。駅ビルが新しくなって、路面電車が2階に乗り入れる……。あの光景を見ると「これからもっと変わるんだろうなあ」とワクワクします。

辻󠄀本さん: 確かにそこが、今の広島で最もダイナミックなエリアです。かつて「駅裏」と呼ばれていた二葉の里周辺も、今や洗練されたオフィスやマンションが立ち並んでいます。
駅周辺に住む最大のメリットは、圧倒的な「モビリティ」です。JR、新幹線、路面電車、バス。どこへ行くにも拠点になる。
しんどう: 広島駅周辺の再開発の影響って、少し離れたエリアとかにも及ぶんですか?
辻󠄀本さん: はい、少なからず影響はあると思います。駅ビルが進化し、商業施設が充実すれば、そこから自転車や徒歩圏内にあるエリアの暮らしやすさにも、良い影響が期待できそうです。
特に、しんどうさんのように「ライターとして東京や大阪のクライアントと仕事をする」可能性があるなら、新幹線が使える広島駅に近いことは、仕事の幅を広げる強力な武器になりますよ。
しんどう: 今は地方で細々とやっていますが、できるならそちらにも進出したい……! その拠点になると考えれば魅力的ですね!
佐伯区・西風新都エリア――広大な空と、計画された街の美しさ
しんどう: ここまで「デルタ(平地)」の話が多かったですけど、実はちょっと気になっている場所があるんです。佐伯区の「西風新都(セントラルシティなど)」エリアです。これまでの広島の街並みとは少し違った、新しい表情を見せてくれる場所ですよね。
辻󠄀本さん: お目が高いですね。西風新都は、広島市が威信をかけて開発した、まさに「計画都市」です。道が広くて真っ直ぐ、電柱も地中化されている場所が多いため、街を歩いていて開放感を感じられますね。車道だけでなく歩道にもゆとりがあり、見通しの良い区間が多いので、車を利用する方にも、歩いて移動する方にも、魅力を感じやすい街並みだと思います。
しんどう: 大きな公園も多いし、うちみたいに小さなお子さんがいるご家庭にはうれしい環境なんじゃないでしょうか。あと、我が家は猫ですが犬を飼っているご家庭にもよさそうですよね。
辻󠄀本さん: はい、おっしゃる通り西風新都には多くの公園があるんですよ。わんちゃんのお散歩にも、お子さんの遊び場にも困りません。それに、動物病院もあるので、ねこちゃんも安心して暮らせますよ。
しんどう: そうなんですか!猫たちはお出かけを怖がって病院に行くたびに大騒ぎするので、動物病院があるのはありがたいです。
辻󠄀本さん: お子さんだけでなく、ペットも含めて家族みんなが暮らしやすい環境が整っているのは、西風新都の魅力のひとつですね。そうしたゆとりのある暮らしを支えているのが、整備された道路や交通インフラなんです。
しんどう: なるほど。
辻󠄀本さん: 広島では日常の移動に車を活用しているご家庭が少なくありませんが、西風新都は道路が整備されているので、車で移動しやすいのが魅力です。山陽自動車道の五日市ICにも近く、休日のドライブや遠出にも便利なんですよ。
しんどう: でも、夫の職場(府中や宇品方面)への通勤はどうなんですかね? トンネルを抜けて中心部を通るとなると、朝の渋滞が少し心配なんです。
辻󠄀本さん: 西風新都からはバス通勤をされる方が多いですね。本数も充実していますので、通勤の利便性も確保されていますよ。実は、最近の西風新都は単なるベッドタウンではなく、商業施設やオフィスも増え、街の中で生活が完結する「自立都市化」も進んでいます。
しんどう: なるほど。平地の「利便性と資産価値」を取るか、高台の「住環境の良さと広さ」を取るか。同じ予算でも、西風新都ならもう一回り広い部屋や、ゆとりのある間取りが狙えるかもしれませんね!
平地(デルタ)の希少性と、駐車場問題
しんどう: 辻󠄀本さんの話を聞いていると、それぞれに魅力はあるものの、私自身は平地の利便性に惹かれるタイプなのかもしれません。
辻󠄀本さん: 広島は、可住地(住める場所)の割合が低いと言われています。平地が限られており、そこにはすでに建物が密集している。だからこそ、平地で駅に近い場所のマンションは、将来的に価値が下がりにくいことも期待されます。

しんどう: でも、平地だと「駐車場代」が高いのがネックなんですよね……。
辻󠄀本さん: 鋭いですね。郊外や高台なら比較的平面駐車場が確保しやすいですが、中区や南区の平地だとどうしても機械式になったり、台数が限られたりします。
ただ、ここで思い出してほしいのが、前回の「タイパ」の話です。利便性の良い場所に住んで、車の稼働率を下げる、あるいは将来的に車を手放すという選択肢も持てる。それは、不便な場所で一生高い維持費を払って車を2台持ち続けることより、トータルでは合理的かもしれません。
しんどう: なるほど。自動車メーカー勤務の夫に「車を手放せ」とは口が裂けても言えませんが(笑)、「本当に必要な1台を、便利な場所で賢く乗る」という提案なら通りそうです。
子育て環境を考える、もうひとつの視点
ここで辻󠄀本さんは、少し踏み込んだ話をしてくださいました。
辻󠄀本さん: しんどうさん、教育環境が良いエリアというのは、単に学校の先生が優秀だということではありません。
しんどう: と言うと?
辻󠄀本さん: 住む場所を選ぶ際、多くの方が学校や公園、通勤のしやすさなどを重視されます。同じような価値観を持ったご家庭が集まりやすいことも、街の雰囲気を形づくる要素のひとつかもしれません。段原や府中町の平地、あるいは中区の落ち着いたエリアが選ばれている背景にも、「子育てしやすい環境で暮らしたい」「利便性と落ち着きを両立したい」といった価値観に共感する方が多いことが関係しているのかもしれませんね。
しんどう: 確かに、周りの友達や親御さんの雰囲気って、子どもの育ちに大きく影響しますよね。
辻󠄀本さん: はい。マンションの価格には、住環境やコミュニティの特性が反映されている側面もあります。ご自宅でお仕事をされることが多いしんどうさんや、毎日通勤するご主人に限らず、多くの方にとって、住環境や地域コミュニティとの相性は大切な要素です。安心して暮らせる環境や良好な人間関係は、目には見えなくても、暮らしを支える価値のひとつになるのかもしれません。
まとめ:わが家が住むべき「新天地」の予感
2時間にわたる「広島エリア講義」を終えて、私は本社を出ました。八丁堀の交差点を、ガタンゴトンと路面電車が通り過ぎていきます。朝、地図を前に途方に暮れていたときとは、街の景色が違って見えました。
ただ「便利なところ」「綺麗なところ」を探していた私に、辻󠄀本さんが教えてくれたのは、「街の成り立ちと、未来の可能性を読み解く」という視点でした。
自動車メーカーの最前線で働く夫にとっての、府中町や南区宇品の「職住近接」のメリット。
ライターである私にとっての、広島駅や中区へのアクセスの良さ。
そして、これから成長していく息子にとっての、落ち着いた教育環境や、西風新都のような公園の多さや自然の豊かさ。
「……全部を100点満点で満たすのは難しいかもしれんけど、優先順位を整理したら、私らが住むべき『正解の場所』が見えてきた気がする」
広島市は、平地が限られているからこそ、その一画を手に入れることへの重みがある。
更新料にビクビクしながら他人の資産を支える生活を卒業して、自分たちの社会的信用をこの「街の価値」に投じる。
私はスマートフォンを手に取り、夫にメッセージを送りました。
「ねえ、エリアの候補、だいぶ絞れてきたよ。今度の週末、候補地を一緒にドライブしてみん?」
一歩、また一歩と、理想の暮らしへと近づいている実感。
しかし、場所が決まれば、次に突きつけられるのは、逃れようのない「お値段」という現実です。
「……でも、最近のマンション、本当に高いよねー。私らの予算、今の相場に太刀打ちできるんかなあ」。
次回、いよいよ本丸。
「広島のマンション相場、ぶっちゃけどうなん!? プロと読み解く、賢い予算の作り方」。
辻󠄀本さんの理系エリートな頭脳をフル活用して、わが家の家計を丸裸にしていきます! (Vol.4:広島マンション相場徹底解剖編へつづく)
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